特集:CX向上をサポートするDXの進め方
出典:CCAJガイドブック Annual Report Vol.33
失望・ストレスにつながる体験を減らしていくことがCX向上につながる
インタビュー:
トランス・コスモス(株)
CX事業統括 DX推進本部 副本部長 兼 DCC総括 CX推進統括 統括部長 岩浅 佑一 氏
しかし、コールセンターの対応が、生活者の感情をマイナス方向に進めてしまう“負”のCXになってしまう可能性もあることから、多くのセンターで慎重な取り組みが進められている。
特に近年、大きな話題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)推進においては、業務効率化を重視するばかりに、生活者がいかに反応するかの検討が不十分で、取り組みによってCXが低下してしまうようなことも危惧される。
そこで、今回はトランス・コスモス(株)でDX推進をご担当されている岩浅佑一氏に、CX向上を目的としたDX推進のあり方について、お話をうかがった。

最初に根本的なことをお伺いしたいのですが、そもそもコールセンターにおけるDXとは何なのか。特に従来からあるITシステム導入とDXの違いについて教えていただけますでしょうか。
従来からのITシステム導入は、現状のオペレーションをより円滑かつ効率的に行うために役立つシステムを導入するものです。したがって、導入するシステムは現状のオペレーションに見合ったものを選択することになり、導入によってオペレーション自体が大きく変更されることはありません。一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術の導入により、オペレーション全体を最適化することを目的とするものであり、場合によっては、その実践によって、オペレーションのあり方が大きく変更されることもあります。
今回のインタビューのテーマは「CX向上をサポートするDXの進め方」ということで、特にCX(顧客体験価値)にフォーカスしているのですが、従来からコールセンターのオペレーションにおいて重要視されているCS(顧客満足度)とCXはどのような関係にあるとお考えですか。
コールセンターのオペレーション上でのCSは主に応対のあり方によってもたらされる満足の度合いであり、コールセンター部門のみの取り組みによって、大きく向上させることも可能です。一方、CXは顧客が商品やサービスを認知してから、購入・利用に至り、さらにより有意義に利活用するためのサポートを受けるまでの全期間、いわゆるカスタマージャーニーの中で感じていただく価値であり、コールセンターでのCSはその一部分ということになります。したがって、CXの向上のためには全社的な取り組みが必要となりますが、その中でコールセンターにできることを考えると、いかに失望・ストレスにつながる体験を減らしていくかということになるかと思います。
失望・ストレスにつながる体験とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
例えば、多くのコールセンターで採用しているIVRでも、選択が面倒であったり、選択肢がわかりづらく、結果としてお客さまが「たらい回しにされた」と感じるようなことがあったりすれば、それは失望につながると考えられます。また、電話、メール、チャットなど複数メディアで対応しているセンターであれば、それぞれの応対履歴が十分に連携されていない場合、お客さまが同様の内容を何度も言ったり、書いたりしなければならないことになり、ストレスの原因になると考えられます。
さらに、これは私自身の体験なのですが、ネットショッピングで購入した商品が希望する期日に届かないといったことがありました。その原因は、商品のメーカーとショッピングサイトの間の決済がうまくいっていないことにあったようなのですが、コールセンターに確認の連絡をしても、なかなか理由がわからず、大きなストレスとなりました。このようなケースでは、コールセンター単体でいかに失望・ストレスをなくすべく取り組みを行っても限界があり、サプライチェーン全体で連携して取り組みを行う必要があります。その実現を図る上では、デジタル技術の導入により、オペレーション全体を最適化するDX推進が有効に機能するのではないかと思います。
コールセンターでDXを推進していくためには、どのような準備、どの程度の期間が必要となるでしょうか。
まず初めに行うべきことは、どのような結果に導きたいかを明確に定めることです。その上で重要なのは、周囲を巻き込むことができる人材をDX推進の責任者に据え、その責任者を中心に推進チームを構成することだと思います。先ほどお話ししたように、DXは従来のITシステム導入と異なり、推進の影響がより広範囲に及ぶものとなります。そこで、少なくともコールセンター全体、場合によっては関連する社内他部門やサプライチェーンを構成する取引先企業なども含め、DX推進の意義やメリットを啓蒙しつつ、取り組みを進めていく必要があります。もちろんDX推進は多くの担当者にとって未経験、もしくは経験の少ないものであるので、コールセンター内に適任者が数多く存在することはないかもしれませんが、少なくともリーダーシップと協働マインドのある人材を充てることは必要だと思います。
DX推進のスケジュールについては、当然のことながら、取り組み内容と規模によって異なるものとなります。例えば、「在宅オペレーターを定着させる」といった内容であれば、準備期間が1 ~ 2 ヶ月程度。その後、小規模なテストを行い、その成功事例を拡大していくといった取り組みで、6 ヶ月程度あれば、一定の成果につなげることができると思います。
コールセンターにおけるDX推進で考えられる具体的なステップはどのようなものになりますか。
DX推進の目的をCX向上とする場合、大きく4段階の取り組みが必要になると思います。 まず行うべきことは、顧客行動を把握することです。具体的には、取り組み開始時点でのカスタマージャーニーを表現するビジュアルを作成することが有効だと思います。作成にあたってはカスタマージャーニーに登場するさまざまな部門の担当者、必要であればともにサプライチェーンを構成する取引先企業の担当者などにも参加してもらい、議論を重ねた上で、より実態に近いビジュアルを作成し、共有することを目指すべきでしょう。
カスタマージャーニーの実態を表現するビジュアルが作成できたら、次に行うべきことは、その中でお客さまにとっての“ペインポイント”となっている部分を明らかにすることです。お客さまにとっての“ペインポイント”とは、カスタマージャーニー上でお客さまが不満・不便やストレスを感じる地点であり、従来のオペレーション上では、効率性など企業側の事情によりある程度、見逃されてきた部分であるともいえます。しかし、CX向上を目指す以上、解消・改善を目指す“ペインポイント”を明確化することは必須になると思います。
その次の段階では、デジタル技術を導入して、具体的な改善のための取り組みを行うこととなります。その際に必要となるのが、オペレーション全体を刷新することにまで踏み込む覚悟です。特にオペレーション刷新の影響が広範なものとなる場合、企業において多かれ少なかれ存在する部門・部署の壁をいかに超えるかが大きなテーマとなるので、先ほどお話しした周囲を巻き込むことができる人材を中心とした推進チームが大きな役割を果たすことになると思います。
この段階まで進めば、DXの取り組みはある程度完遂されたことになると思いますが、その上で忘れてはいけないのが、検証というステップです。デジタル技術を導入してオペレーションを最適化したことによって、取り組みの第1 ~ 2段階で明確化したカスタマージャーニー上の“ペインポイント”がどの程度解消されているのか、定量的指標などできる限り目に見えるかたちで検証することが必要となります。そのためには、着手時の状況と目指すべき成果をなるべく客観的に確認できるよう、対象となる指標をあらかじめ明確化しておくことが必須となるでしょう。
コールセンターでDXを推進していく上で、留意すべきポイントを教えてください。
特に申し上げておきたいのは、「DXは万能の魔法の杖ではない」ということです。例えば、お客さまからのお問い合わせへの対応をDXによって最適化するという取り組みがあったとします。その中で、「コールセンターに電話をするのは面倒なので、自己解決したい」というお客さまのニーズを充足するのであれば、デジタル技術を活用してFAQサイトを充実化し、さらにSEO対策なども行うことで、Googleなどの検索サイトからFAQサイトに行き着く可能性を高めれば、一定の成果は得られるはずです。また、「社内でのたらい回しが多い」という問題を解決するのであれば、全社的な統合CRMシステムを構築し、応対履歴を一元化して、各部署・部門で共有することができれば、かなりの改善につなげることができると思います。
しかし、昨今のように社会の変化が早い中では、いったん課題を解決しただけで、多くの生活者の満足を得続けることはできず、時間の経過により、また、新たな不満要素が発生してしまうことは避けようがありません。したがって、DXの取り組みによって一定の成果が出た後でも、常にさまざまなKPIを確認・検証できる体制を整え、新たな課題を見出して、機動的に改善するPDCAサイクルを構築しておくことが重要だと思います。
また、DX推進のためのチームづくりという観点では、トップダウンとボトムアップをケースバイケースで使い分ける体制を構築することも求められます。特にDX推進がコールセンターのオペレーション全体の大きな変革につながるような場合、トップダウン型の進め方だけでは、実際にお客さま対応を行うオペレーター層などからの反発が大きくなり、なかなか定着につながらないといったことも考えられます。
その解決方法は、オペレーター層にもチームに参加してもらい、同じ目線で課題に対する検討を行って、“他人事”ではなく、“自分事”として解決策に行き着いてもらうことです。このようにボトムアップ型で新しいオペレーションが決定されたというプロセスがあれば、定着スピードは速まり、取り組みの成果が高まる確率も向上するはずです。


コールセンター業界ではこれからDXへの取り組みを本格的に開始するという企業も多いかと思います。そのような企業にアドバイスがあるとすれば、どのようなことでしょうか。
まずは、とにかく取り組みを開始することが重要だということです。いかに完璧なDX推進プランを立案できたと思っても、人間の想像力には限界があるので、必ず穴はあるものです。このような視点に立つと、求められるのは試行錯誤を繰り返すことを受け容れる姿勢ではないでしょうか。「失敗は成功の母」という言葉があるように、実際に取り組みを行った中での失敗からは、想像の中からだけでは得られない多くの教訓と示唆が得られるはずです。その教訓や示唆をベースとして、プランの更新を図っていけば、より多くの成果が得られるのでないかと思います。
また、取り組みを進める中で、常に心に留めておかなければならないのは、CX向上が目的、目標であって、DX推進は手段に過ぎないということです。
特に冒頭でお話ししたDX推進と従来からのITシステム導入との区別があいまいとなっているようなケースでは、DX推進が目的化してしまい、デジタル技術の活用によりオペレーションの変革を実現した時点をゴールと考えてしまうようなことがあり得ます。
しかし、よかれと信じて行ったDX推進の結果が、お客さまの新たな不満足を生むことにつながってしまい、全体としてはCXのレベルが低下してしまうといったことも考えられます。
このような状況を回避するためには、お客さまの動向をなるべくリアルタイムに近いかたちで把握しておくことが重要となります。コールセンターには受電数、応答率、HPへのアクセス数などのさまざまな定量的な情報とともに、お客さまの声という定性的な情報も集まります。これらを総合的に分析すれば、自社の現状の体制がお客さまにとって、“よい経験”をしたと感じられるものなのか、つまり、CX向上につながるものなのかを判断することができるはずです。「出発点は常にお客さまの声・反応にある」という考えがあれば、DX推進が目的化してしまうような事態は避けることができるでしょう。
本日はお忙しいところ、貴重なお話しをありがとうございました。
出典:CCAJガイドブック Annual Report Vol.33

