コールセンターにおける従業員の福利と健康 Vol.2

マネジメント

出典:CCAJ NEWS 2022年11月号(Vol.308)

コールセンターにおける従業員の福利と健康 Vol.2

専門家に学ぶ悪質クレームへの実務的な対応とメンタルケア

カスタマーハラスメントをはじめとする暴言・威嚇・不当要求など、悪質なクレームが増えているといいます。こういった社会通念上から見ても著しく不相当な要求から従業員を守ること、さらに従業員のメンタルケアを行うことは、コールセンターでも重要な課題となっています。一方で、悪質クレームへの具体的な対処法や企業スタンスの整理、対応後の従業員のフォローに苦慮する現場もまだ多いと聞きます。
そこで、前号に続く特集の第二弾として、悪質クレームに現場責任者はどのように対処すれば良いのか専門家の立場でわかりやすくまとめた『現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック』編著を統括した公益社団法人消費者関連専門家会議専務理事の坂倉忠夫様と、CCAJスクールでコールセンターストレスマネジメント基礎講座の講師を務めるアクティブワークケア開発センター代表の柴山順子様のお二人の専門家のお話をお届けします。
現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック
公益社団法人 消費者関連専門家会議 専務理事 坂倉 忠夫 様

2022年8月26日、公益社団法人 消費者関連専門家会議(以下、ACAP)編著による『現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック 〜カスタマーハラスメント対策の手引き〜』(以下、対応実務ハンドブック)が発行されました。
対応実務ハンドブックは、CCAJNews Vol.304(2022年7月号)でも紹介した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(厚生労働省作成)に沿って、悪質クレームに対して現場責任者が果たすべき具体的役割を記したハンドブックです。
ACAPは、企業や団体の消費者関連部門の責任者や担当者が業種を超えて集う公益社団法人であり、その中でもクレーム対応のエキスパートである国内各社の現役お客様相談部門責任者20名が、より実践的な内容をまとめた手引書になっています。
そこで、編著を統括したACAP 専務理事の坂倉忠夫さんに、悪質クレームの現状、同ハンドブックの発行までの経緯と活用法などのお話を伺いました。

● 対応実務ハンドブックを発行した経緯
最初に、坂倉忠夫さんにACAPと悪質クレームの現状について伺うと、「ACAPは、消費者対応部門の責任者や担当者、わかりやすく言うとお客さま相談室の責任者が集まっている団体です。お客さまからいただくクレーム、苦情、ご意見はありがたく受け止めて、今後の企業経営、商品、サービスに活かしていくことが基本姿勢です。ほとんどのクレームが正当なもので、善良なお客さまが大半ですが、ごく一部で通常の社会通念を逸脱するような要求態度、あるいは要求内容があるのも事実です。そういった悪質クレームの状況はACAPの正会員を対象とするアンケート調査にも現れていて、残念ながら大半の企業が悪質クレームを受けたことがあるという結果が出ています」とのことです。
ACAPでは、3〜4年ごとに、企業の消費者対応体制や社会・消費者の動向に関する調査を実施しています。2021年9月〜10月に、会員企業525社を対象に行った「企業における消費者対応体制に関する実態調査」の報告書によると、社会通念を逸脱した「著しい迷惑行為」を前年と比較したところ、「前年に比べて増えた」が20%、「変わらない」が48%で、「減った」も13%ありますが、8割を超える企業が悪質クレームを受けているという結果になっています。
さらに、同調査における「経験した著しい迷惑行為(n=316、複数回答)」の上位3つとしては、「暴言、威嚇/77.2%」「権威的(説教的)態度/69.9%」「不当な金品、過剰なサービスの要求/63.3%」となっています。調査対象には対面でのサービスも含まれますが、コールセンターでも同様な状況があるのではないでしょうか。
悪質クレームが増加する中で、ACAPの会員企業の対応はどうなっているのでしょうか。坂倉さんによると「“著しい迷惑行為に関する基準や対応方針・マニュアルを作成していますか”という設問に対して、作成しているが41.8%で半数にも満たないことがわかりました。検討中も21.5%ありますが、多くの企業がこういったマニュアルの整備ができていないことは課題であると思います。そこで、ACAPの中から、異なる企業・業種に属するメンバー20名を集め、8ヵ月かけて執筆して出版したのが、この対応実務ハンドブックです」と説明します。

●悪質クレームの定義と類型的な分類
カスタマーハラスメントや対応困難者、モンスタークレーマーなど、著しい迷惑行為に対する呼称はいくつもありますが、対応実務ハンドブックでは、企業に対する暴言・威嚇・不当要求など著しい迷惑行為を「悪質クレーム」と位置付けています。
悪質クレーム対応は、個人の判断にもとづくものではなく、組織のルールに則って対応することが必要です。企業にとって、悪質クレーム対応は、お客さま対応の観点のみならず、危機管理や、従業員が安全に働く環境を整える意味からも重要性を増しています。
悪質クレームに毅然として対応するためには、企業としての定義や判断基準、対応方針、現場責任者の具体的な対策などが盛り込まれたマニュアルの作成が求められます。しかし、それぞれの環境に合わせたマニュアル作りは、けっして簡単ではありません。方針作りの第一歩として、悪質クレームとは何かを明確にすることが求められます。では、どこから悪質クレームとして線引きをすれば良いのでしょうか。坂倉さんは「クレーム対応はスキーのジャンプに似ていると思います。ジャンプで飛び立った後も、相手はお客さまですから、風圧に向かって前傾姿勢を取ってずっと頭を垂れています。しかし、いつまでたってもそのままだと、いずれ墜落します。K点を過ぎたら、すなわち悪質クレームに直面したら、立ち上がって、テレマークを作って着地することで転倒しないですみます。では、それがどこかというと、ジャンプ台によってK点が違うように、業種や企業によって違ってくるでしょう。どうK点を決めれば良いのか、いろいろと悩んでいるのではないかと考えました。そこで、悪質クレームの定義をはじめ、分類、対応方法、具体的な事例などをハンドブックとしてまとめることになりました」と説明します。対応実務ハンドブックにおける具体的な悪質クレームの定義は以下の通りです。

【悪質クレームの定義】
要求内容または要求態度が、社会通念に照らして著しく不相当なクレーム
それを受けて、類型的な悪質クレームとして、2分野×7項目の14分類が示されています。

【悪質クレームの類型的な分類】
Ⅰ:要求内容が社会通念に照らして著しく不相当なクレーム
  ①過剰な金品の要求 ②自社製品以外の要求 ③不当な返品・返金の要求 ④因果関係のない不当要求 ⑤土下座など身体的苦痛を伴う要求 ⑥従業員の解雇などの要求 ⑦不当な謝罪文の要求
Ⅱ:要求態度が社会通念に照らして著しく不相当なクレーム
  ①人格を否定する暴言 ②威嚇・脅迫 ③暴力行為 ④セクハラ行為 ⑤営業妨害 ⑥長時間対応 ⑦同じ内容を繰り返す
さらに、対応実務ハンドブックの第3章「類型別・悪質クレームへの対応基準」では、14分類した悪質クレームのそれぞれに対する詳しい説明が掲載されています。これらを一読することで、悪質クレームの内容、判断基準、代表的な事例、具体的な対応方法などが理解できるようになっています。
第3章の分類別の全体像に対応する具体的事例として、事例編「事例に学ぶ悪質クレームへの対応策」があり、50のケーススタディーが掲載されています。これらの事例は、対応実務ハンドブック執筆参加メンバー各社で、実際に起きた事例を参考に、再編集して平準化した内容になっています。

●現場責任者のための対応実務ハンドブック
対応実務ハンドブックは、“現場責任者のための”と銘打たれています。現場のマネジャーが対応すべきことに関しては、第4章「現場責任者の役割を明確にする」、第5章「現場責任者の未然防止・緩和策」に記されています。
坂倉さんは「現場責任者の役割を明確にした上で、具体的な取り組みを書いています。まず、悪質クレームへの対応方針を作成し、社内に周知していただくこと。2番目がクレーム対応教育です。ほとんどが善良なお客さまですが、悪質クレームの中には最初の対応を失敗してしまったために、そうなってしまったケースもあります。基本としてクレームの初期対応をしっかりできる教育が必要です。それでも、悪質クレームに直面してしまった場合の、担当者に対するフォローとメンタルケアの必要性などについて解説しています。メンタルケアとしては、現場のリーダーやSVがいつでも代わるという姿勢を見せる、周囲のメンバーががんばれというメッセージを送る、対応後にねぎらいの言葉をかける、休憩など気持ちを切り替える時間を作るなどの対応方法を示しています。悪質クレーム対応には、対応方針・教育・対応後のフォローの3つが揃うことが大切だと思います」と説明します。
対応実務ハンドブックのあとがきに「本書を活用いただいて、悪質クレームへの対応方針、基準、マニュアルづくりの一助にしていただくことを、そして悪質クレームによるストレスを抱える担当者が1人でも少なくなることを、祈っております」と書いた坂倉さん。さらに「企業としてマニュアルを整備するには、お客さまへの対応方針を明確にする必要があります。細かくなくても良いので、基本的なポリシーを明確にして社内に発信することが重要です。それをベースに、電話だけでなくすべての顧客接点で使えるマニュアルを作成していただければと思います」と話します。
あとがきには「クレームのうち悪質クレームはごく一部であり、ほとんどが正当なクレームです。悪質クレーム対策のみに注力することで、お客さまがクレームを言いにくくなったり、企業の対応者が怠ることにならないよう願っております」とも記されています。

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