特集:「お客さまは神様?」 カスタマーハラスメント対策について考える
出典:CCAJガイドブック Annual Report Vol.34
「お客さまは神様?」 カスタマーハラスメント対策について考える
ケーススタディ「ANAグループ」「東京ガスカスタマーサポート株式会社」
厚生労働省の令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間のハラスメント相談件数の比較でカスタマーハラスメント、いわゆるカスハラの増加率が最も高く、また、過去3年間に仕事でカスハラを受けた経験のある人は15%にも上る。企業・団体において「お客さま対応窓口」を担当するコンタクトセンターにおいては、その比率がさらに高いものとなっていることは想像に難くない。
もちろん、「ハラスメント」は直訳すれば「人を困らせること。いやがらせ」であり、断固拒否するべきものであるが、従来、「お客さまは神様」といった概念が定着していた日本の企業文化をベースとして、「いかに円満に対応するか」に主眼を置いて、理不尽な物言いや要求に対してもある程度受容してしまうセンターも珍しくなかった。
しかし、そのような対応を続けていては、今や社会問題化しているカスハラを助長してしまうことにつながり、また、センターで働く従業員の心身の健康を害して、離職率が上昇してしまうといった事態にもなりかねない。 そこで今回の特集では、実際にカスハラ対策を行っているセンターの事例を通じて、これからの時代にふさわしいカスハラ対策のあり方について探った。
今回取材にご協力いただいたANAグループでは2024年4月、従来から運用してきたお客様対応ガイドラインにカスハラに関する項目を追加し、グループとしてのカスハラの定義と対応基本方針を規定。ガイドラインに基づいて各部門が策定したマニュアルをベースに対応を行いつつ、部門を超えた情報共有にも注力することで、グループとして一貫性ある方針で対応できる体制を整備している。
また、東京ガスカスタマーサポート(株)では、2023年1月に5つのお客さまセンターから代表者が集うかたちでワーキンググループ(WG)を結成し、カスハラ対応への取り組みを本格化。このWGで毎月3回程度、実際の対応に基づく討議を行い、「カスハラの定義・行為類型化」「一部拠点でのトライアル実施」といったステップを経て、「対応ルール・マニュアル作成」につなげ、2023年7月から5センターでカスハラ対応の運用をスタートした。
両者の取り組みに共通しているのは、発生してしまったカスハラ事例に対応するだけでなく、カスハラを生み出さない対応にも注力していることだ。
例えばANAグループでは、クレームに対しては、傾聴と受容・共感を基本として、ご意見と要求を分離して考え、ご意見やお気持ちを受容した上で、要求の中で社会通念に照らして過度と判断されるものについてはお断りするといった方針を採っている。
また、東京ガスカスタマーサポートでは、お客さまに発言の制止・警告を行うようなケースでも、直接的に「カスハラ」という単語を持ち出して、お客さまをさらに刺激しないよう留意。また、コミュニケーターに対して「お客さまの気持ちに寄り添った応対」の研修を強化するなど、クレームをカスハラにまでエスカレートさせない対応に注力している。
センターで働く従業員の心身の健康を害する危険性のあるカスハラに対して、毅然とした対応を行うべきであることは間違いないが、お客さま対応に直接従事するコンタクトセンターの現場スタッフが、現在進行形の応対事例がカスハラに該当するかどうかを瞬時に見極め、適切な対応を行うことは難しい。その中でカスハラ被害を生み出さないためには、まずは企業・センター内でカスハラの定義を明確化し、誰にでもわかりやすいかたちで可視化。そして、段階に応じたエスカレーションのあり方など、詳細な対応方針・体制を整備することで、組織全体としてカスハラに対応していくことが肝要であろう。

