コンタクトセンターとカスタマーハラスメント

マネジメント

出典:CCAJ NEWS 2025年5月号(Vol.338)

CCAJ が主導するカスハラ対策

カスタマーハラスメント対策ガイドラインを策定

CCAJ では、深刻化するカスタマーハラスメントに対応するための指針として「コンタクトセンター/コールセンターにおけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」を策定し、2025 年3 月12 日に協会の公式ホームページを中心に公開しました。今後とも、会員企業および関連業界で広くご活用いただくための活動を進めていきます。
CCAJ News でも、カスタマーハラスメント対策に関する取り組みについて、2 号にわたって特集をお届けすることになりました。今号では、策定の中心となった総務委員会の活動と本ガイドラインの内容について同委員会の委員長と副委員長にお話を伺いました。コンタクトセンター従事者をカスタマーハラスメントから守るためにも、ぜひ参考にしていただければと思います。

過大な要求や悪質なクレームといった、カスタマーハラスメントに対する社会的な注目が高まっています。2022 年2月には、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成。さらに、地方自治体によるカスハラ防止条例の制定や、労働施策総合推進法の改正などが進められるとともに、カスハラ対策に本格的に取り組む企業や業界が増えてきています。
CCAJ でもいち早くカスハラ対策に着手し、2025 年3 月には「コンタクトセンター/コールセンターにおけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」として明確な指針を公開することができました。本ガイドラインは、協会の総務委員会が中心となって策定しました。有識者や先行業界・団体へのヒアリングに加え、会員企業の実態把握のためにアンケートを実施。会員企業50 社、従業員2,493 名から寄せられた生の声をもとに、総務委員会でさまざまな方面から検討を行い取りまとめました。コンタクトセンター特有の事情も踏まえながら、カスハラを類型化して定義するとともに、判定基準や対処方法などを示しています。事業者向けガイドラインとして、カスハラに対する基本方針の策定や判断基準の明確化、対応手順・マニュアル作成等に役に立つ内容となっています。
本ガイドラインは、コンタクトセンター従事者の保護を目的に、カスハラに徹底した姿勢で臨むことを表しており、協会の基本方針である「今後のコンタクトセンターのあるべき姿」の4 つの指針のひとつである『多様な人材が心身ともに健康的に活躍できる環境の整備』に合致した取り組みです。協会ホームページで広く公開していますので、会員企業に限らず多くの企業や現場でご活用いただければと思います。

CCAJ発のカスハラ対策ガイドライン

今回公開した「コンタクトセンター/コールセンターにおけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」は、総務委員会を中心にとりまとめられました。策定までの具体的な流れとしては、2024年4月に事前準備として有識者である香川希理弁護士へのヒアリングを行い、2024年5月に総務委員会としての対応方針・計画を決定。6月に先行事例として一般社団法人全国携帯電話販売代理店協会(全携協)との情報交換を実施しました。
それらの情報をもとに、会員企業への実態調査のアンケートを行うことで現状把握に取り組みます。その結果をもとに、ガイドライン案を作成。総務委員会を中心とする、さまざまな方向からの検討と議論、および会員への意見公募を経て、理事会の承認後に確定・公開となりました。
約1年間の取り組みによって完成した本ガイドラインは、どのような役割を担っているのでしょうか。協会を中心とするカスタマーハラスメント対策の現状とこれからの取り組みなどについて、総務委員会の杉村元委員長と土屋幸嗣副委員長にお話を伺いました。
本ガイドラインの概要について杉村委員長は、「このガイドラインは、一般的なカスハラの定義を定めたうえで、その中からコンタクトセンター・コールセンター特有のものを選び出し、さらにその対処法を例示するというアプローチになっています。基本的には電話応対に関するものになりますが、対面でのカスハラ対策なども含まれています。また、インハウスとエージェンシーというそれぞれの立場で利用できるように配慮しながら議論を進めてきました。インハウスでもエージェンシーでも、カスハラに対峙するのはあくまでスタッフでありコミュニケーターです。ガイドラインとしては、顧客対応の点では同じですが、エージェンシーの場合、クライアントとの関係という後方での対応が重要になります。クライアントへの働きかけやクライアント側での対応、エージェンシー側の気持ちなども少しお伝えしていますので、幅広く対応できる内容になっています」と説明します。

会員企業以外にも広く公開

公開後の反響について杉村委員長に伺うと、「当社内では、踏み込んだ内容にまとめるのは難しいのではないかと捉えられていた節がありましたが、実際にできあがったガイドラインを見て、想像以上に深い情報が盛り込まれてちゃんと仕上がっているという感想をもらえました。総務委員会を中心にしっかりと作り込んできたことが認められたと感じています」と話します。事務局に届く声も、細かく精査された内容で良い、見るのが大変だと思うほどしっかりした情報が詰まっているといった評判をいただいています。
今後は、本ガイドラインを活用することで、各社の取り組みがより有意義なものになることが期待されています。次のステップについて杉村委員長は、「会員企業をはじめ各社にお願いしたいことは、このガイドラインをもとに独自の規約やルールを取りまとめて体制を整備していただきたいということです。ガイドラインからマニュアルなどに落とし込む作業はそれなりに手間や時間がかかります。でもそれが、従業員の皆さんを守ることにつながります」と話します。
土屋副委員長からも「会員企業にもいろいろな規模の会社があって、大手であれば社内プロジェクトを立ち上げて全社的に取り組むこともできると思いますが、なかなかそこまで時間や人員を割けない会社もあるのではないでしょうか。そういう場合でも、本ガイドラインを参考にすることである程度の対策は実施できるようになっています。そういう使い方からスタートして、少しずつ独自のものに仕上げていってもいいのではないでしょうか」との説明がありました。
杉村委員長からは「カスハラと捉えていいか迷う場合などにこのガイドラインを参考にすることで、毅然とした対応を取っていただけるように、皆さんの背中を押すというか目安になるものになっていると思います。企業の規模にかかわらず、どのような形であれ有効に活用していただきたいと思います」とのメッセージがありました。
もう一つのポイントが、本ガイドラインが会員企業以外でも協会のホームページからダウンロードできるようになっていることです。香川弁護士からは「一般的に、業界団体はこういった情報は会員専用にクローズすることが多いのですが、一般にもオープンにするというスタンスはすばらしいと思います」とのコメントをいただきました。

本ガイドラインについて

本ガイドラインでは、コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメントに関する分析が行われています。その一部をご紹介します。

1.カスタマーハラスメントの定義
顧客等から従業員に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境や心身の健康、人としての尊厳を害するものと定義しています。(出典:東京都カスタマーハラスメント防止条例および同 各団体共通マニュアルを参考に作成)
2.コンタクトセンター特有の事情
顧客等への対応や従事者へのアンケート調査から、コンタクトセンターではいくつかの事情等があることが明確になりました。それらを十分に考慮し、効果的なカスタマーハラスメント対策の検討を行えるように、5つの具体的な状況が示されています。
3.コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメントの類型
①時間拘束、②リピート、③暴言・怒声、④威嚇・脅迫、⑤揚げ足取り・執拗な責め立て、⑥権威的(説教的)態度、⑦インターネット・SNS・マスメディアへの投稿、⑧セクハラ行為、⑨過剰な謝罪要求、⑩個人情報・プライバシー情報の開示要求、⑪従業員の解雇・罰則・異動の要求、⑫正当な理由のない過度な要求、という12項目に分類しています。

多数の生の声が集まったアンケート結果

本ガイドラインで明示している内容は会員企業へのアンケート調査の結果が基本となっています。杉村委員長、土屋副委員長ともに、総務委員会での活動と並行して、自社のアンケート実施も担当されたとのこと。従業員の皆さんの反応も含めて、アンケート収集の状況を伺いました。
杉村委員長によると「私が管掌している部門から、従業員の皆さんにダイレクトにアンケートを依頼しました。それぞれの事業部門を通すことも考えたのですが、社内で温度差が出るのではないか、回収スピードも違ってくるのではないかと考えて、全社的な社内ツールを使って回答していただくという手法をとりました。コミュニケーターの方の関心が高いからだと思いますが、積極的に回答いただけました。特に督促をかけませんでしたが、期限までに多くの回答がありました」と説明します。
土屋副委員長も「当社も同様で、コミュニケーターの方たち向けに情報を発信する社内の広報サイトを通して、アンケートの案内を流しまして、多数の回答をいただけました。アンケート結果にも出ていますが、実際にいろいろと困っている方がいたり、世間で取り上げられる機会が増えている内容で関心度が高いものになっているということで、多くの皆さんに協力していただけたと思います」と話します。この機会に、アンケートを通して自分の経験や考えを知ってほしい、聞いて欲しいという希望が多かったようです。それだけカスハラは、コンタクトセンター業界には身近な問題と言えるのではないでしょうか。
今回のアンケートの実効性に対して杉村委員長は、「何かスタッフの声を取ろうとすると、あまり深い質問になると実務に支障が出るのではないか、あるいは気を遣った答えに偏るのではないかと考えて質問内容を変えてしまうこともあります。今回、そういう圧力的なものはまったくなかったので、回答者の生の声が集まったと感じています」と説明します。喫緊の課題であり、CCAJによる業界としてのアンケートであることも奏功して、忖度や遠慮が出にくい状況で情報が集まったと言えるのではないでしょうか。

アンケート結果から見える企業と現場の差異

今回、『会員企業向け』と『従業員向け』の2つのアンケートを実施しています。会員企業は50社、従業員は2,493名から回答いただきました。従業員向けのアンケートは、職種や役職にかかわらず、現場で対応する従業員もそれ以外の方も同じ設問にお答えいただいています。
アンケート結果について委員長・副委員長ともに、会員企業向けと従業員向けの間に認識の違いがあると指摘します。
土屋副委員長は「企業側から見ている実態と、本当に現場で起こっていることに差があるようです。企業担当者から見えないところでいろいろなことが起きていて、被害というほどではないにせよ、それに近い実態があることがわかりました。その認識のギャップは感じました」と話します。
杉村委員長も「企業側とスタッフの差というところでは、CCAJとコンタクトを取っている企業側の窓口は、総務部門や人事部門、経営企画部門など会員企業ごとにまちまちで、現場から遠い部署のこともあります。ある程度予測はできたのですが、会社としてはハードクレームに発展したケースを中心に考えがちになってしまったところもあると思います。
一方で、コミュニケーターなど現場での受け止め方は違っていて、日々の業務での電話一本一本から体験で答えているので、ちょっとしたことで怒鳴られたりといったことがあることを改めて気づかされました。多くの方が大変な思いをして業務を行っているという実態がより深く読み解けたと思います」と感想を述べます。
実際の設問と答えを見てみましょう。「直近1年間においてカスハラは増えていると感じますか?」という質問を投げかけました。企業向けは『増えている:18%』『あまり変わらない:72%』『減っている:2%』『分からない:8%』、従業員向けは『増えている:28%』『あまり変わらない:38%』『減っている:6%』『分からない:28%』との結果となりました。特に、「増えている」とした割合が従業員と企業で10ポイントの乖離があり、従業員の方が高い傾向にありました。また、企業では「あまり変わらない」と「増えている」の合算で90%に達し、世の中の関心が高まっている状況においてもカスハラ発生の実態に変化がないことが伺えました。
もう一つの「カスハラに対してどのような措置が必要と考えますか?」という設問に対する答えで、『企業のクレーム対策の教育』では、企業が61%のところ従業員は39%となり、大きな乖離がありました。企業が教育でクレーム回避につなげられると考えている一方で、従業員はそれでは不十分だと感じているようです。その他の記述からも、従業員からは『カスハラに対する企業姿勢を示す』ことで根本的な問題解決を求めていることが伺えました。
企業側の姿勢について杉村委員長は、「コンタクトセンター業界は、お客さまの疑問や不満がないと成立しないという側面もあります。何の質問もなければコンタクトセンターは要らないし、それが企業の理想でもあります。一方で、一般論としてクレームをおっしゃる方は潜在的に優良顧客になる可能性もあります。1回の行き違いでコミュニケーションを遮断してしまうことは、企業側の機会の損失にもつながります。しかし、カスハラは間違いなくない方がいいので、そこの線引きが一番難しい点だと思います。
今後は、音声認識や感情認識などAIを活用することで精度が上がれば、システム的にカスハラに気づいてコミュニケーターの方を救ってあげたり、二次対応に移行するなどの環境も整備できるのではないでしょうか。カスハラをゼロにすることは難しいかもしれませんが、少しでも減らすために、業界全体で取り組んでいくことが必要だと思います」と話します。
最後に読者の皆さんへのメッセージをいただきました。
土屋副委員長からは、「今回のガイドライン策定の目的の一つに、従業員を保護することがあります。コンタクトセンター業界は、現場で働いていただいているスタッフの皆さんがいないと成り立たないですし、採用活動も非常に厳しくなっています。コンタクトセンターに対するネガティブイメージを払拭するためにも、安心して働ける職場を提供するためにも、このガイドラインを活用していただきながら、業界全体でイメージアップにつなげていきたいと思っています。ぜひ、多くの皆さまのご協力をお願いします」とのお話がありました。
杉村委員長からは、「このガイドラインは、総務委員会が代表して作りましたが、今後とも会員各社の生の声をもっとお伺いしたいですし、ご覧いただいたうえでのご意見を承りたいと思っています。ガイドラインを作って終わりではなく、もっと良いものに仕上げていくためにもご協力いただけるとありがたいので、ぜひ協会にご連絡をお寄せいただければと思います」とのコメントがありました。
今回の「コンタクトセンター/コールセンターにおけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」の策定は、カスハラを撲滅して従業員の皆さんを守るための取り組みのマイルストーンの一つに過ぎません。ぜひ、会員企業の皆さんをはじめ、多くの企業にカスハラ対策に積極的に取り組んでいただければと思います。

出典:CCAJ NEWS 2025年5月号(Vol.338)

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