特集:「お客さまは神様?」 カスタマーハラスメント対策について考える

マネジメント
ケーススタディ1:ANAグループ
お客様対応ガイドラインに基づき、組織的なカスハラ対応を実践

ANAグループでは、お客様対応ガイドラインにおいてカスハラの定義と対応基本方針を規定。ガイドラインに基づき各部門が策定したマニュアルをベースに対応を行いつつ、部門を超えた情報共有にも注力することで、グループとして一貫性ある方針で対応できる体制を整備している。

予約案内センターの運営を担うANAテレマートがいち早く「カスハラ対策宣言」を策定
ANAグループとJALグループは2024年6月、共同で「カスタマーハラスメントに対する方針」を策定したことを発表。航空業界でもカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が問題化しており、対応が急務となっていることを示す事象として大きな注目を集めた。
航空業界では、日常的な業務の中で不特定多数のお客様への対応を数多く行っている。その中ではさまざまなトラブルが発生する可能性が常に存在しており、それは航空機の客室内、空港といった対面での対応の場にとどまらず、当然のことながら非対面のコンタクトセンター部門にも及んでいる。
ANAグループのコンタクトセンター部門としては、予約案内センターの運営などを担当するANAテレマート(株)や、サービス全般に関するご意見などを受け付ける「ANAご意見・ご要望デスク」などがあるが、その中でANAテレマートが2022年2月、グループに先駆けて「カスハラ対策宣言」を策定した。
これは、コンタクトセンター部門において、カスハラ対応がスタッフのストレスにつながり、コロナ禍以降、航空需要が回復する中で、必要な人材の採用・定着を困難とする要因の一つになっているという認識に基づいて行われた取り組みであるが、同グループにおける具体的なカスハラ対応の端緒ともなっており、2024年4月にANAグループのお客様対応ガイドラインへのカスハラに関する項目の追加、さらには冒頭で紹介したJALグループと共同で策定した「カスタマーハラスメントに対する方針」につながるものとなっている。

グループのお客様対応ガイドラインの中にカスハラ対策に特化した項目を追加
お客様の体験価値を向上するために、ANAブランドとしてのお客様視点の考え方や価値観をまとめたお客様対応ガイドラインは2019年に策定されたが、もともと「お客様に対する心構え」の項目の中に「クレーム対応における心構え」が設けられていた。その骨子は、クレーム対応においては①事実確認、②傾聴・検討、③判断を基本とするといったものであり、ANAテレマートの「カスハラ対策宣言」も、この考え方に基づいて策定されている。
その後、ANAグループの中でカスハラが疑われる事象が数多く報告され、また、厚生労働省が2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成・発表するなど社会全体としてもカスハラ対策の強化が求められる中で、お客様対応ガイドラインの中にカスハラ対策に特化した項目が新設された。この項目では、カスハラ対応の背景と目的などとともに、ANAグループが考えるカスハラの定義や行為例なども記されている。
その中でカスハラの定義は、顧客または第三者(取引先等を含む)からの、①優越的な立場を利用した言動であって、②不法行為に該当する行為、およびこれらにつながりかねない行為(=不当行為)、または義務のないことや社会通念上相当な範囲を超える対応を要求する行為(=不当要求)により、③社員の就業環境が害されること、といった3要件を満たすものと規定されており、航空事業における行為例として「暴言、大声、侮辱、差別発言、誹謗中傷」など、9つの行為を例示している。

同一のお客様には同一の方針で対応できるようグループ内で情報を共有
このようなガイドラインの下、ANAグループで具体的に行われているカスハラ対策の中で特に注目されるのが、部門を超えた情報共有に基づく組織的な対応だ。
ANAグループの航空旅客事業分野では、原則としてANAテレマート、空港、客室など各部門の一次対応部署がお客様対応を完結することとしており、カスハラが疑われる事象などが発生した際には、傾聴と共に事実確認を行ったうえでお客様対応に誠意を尽くし、それでもお客様が納得されない場合には、本社窓口としての「ANAご意見・ご要望デスク」をご案内している。お客様から電話やメールなどで着信した場合には、お客様の声や対応を詳細に記したレポートを起票し、月1回グループ内の各部門担当部署が集まって行われる定例ミーティングで報告。全グループで情報共有することにより、電話・メール対応、空港や客室での対応など、場面にかかわらず、同一のお客様には同一の方針で対応できるよう体制を整備している。
また、カスハラ対策への取り組みをグループ内に波及させるための施策としては、カスハラ対応マニュアルの整備やカスハラ対応に関する従業員啓蒙活動も見逃せない。
マニュアルの整備については、対面(空港、客室)と非対面(コンタクトセンター)では必要な対応が異なるため、グループ全体の方針に基づいて各部門が具体的な内容を定め、それぞれに啓蒙・定着を図っている。一方、従業員教育については、お客様対応のフロントライン責任者向けのオンライン研修にカスハラ対応に関する内容を組み込むなどで、グループ全体としてカスハラ対応の強化を図っている。

お客様の“負”の感情をエスカレートさせないために
ANAグループのカスハラ対応施策の中で、特に力を入れているのが、カスハラを生み出さない対応だ。 まず、クレームに対しては、傾聴と受容・共感を基本として、ご意見と要求を分離して考え、ご意見やお気持ちを受容した上で、要求の中で社会通念に照らして過度と判断されるものについてはお断りするなど、毅然と対応する方針を採っている。
ただし、その中でも担当者側からいきなりカスハラと断定することはせず、「このような状況が続いた場合、弊社においてカスハラと判断せざるを得ません」といった表現を用いることで、お客様が自発的に不当な言動を止めるよう、働きかけるようにしている。また、例えば、過度な要求に対しては、「弊社の対応がご期待に添うことができず、申し訳なく思います」といった言葉を添えてお断りすることで、ご理解を促す対応も行っている。
「お客様視点」を掲げるANAグループにとって、まずは定時性や利便性など基本品質の向上こそが最も重要であり、全てのお客様に安心で快適な空の旅を提供するために不断の努力を重ねていくことが欠かせない。一方で、残念ながらごく一部のお客様にみられるカスハラ行為に対応することは非常にセンシティブな業務であるが、ANAグループでは、上述したような対応を継続していくことで、今後もお客様の“負”の感情をエスカレートさせず、良好な関係が保てるように努めていきたいとしている。

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