特集:「お客さまは神様?」 カスタマーハラスメント対策について考える
より安心して働ける環境を目指し、現場主導でカスハラ対応ルール・マニュアルを策定・運用
東京ガスカスタマーサポート(株)では、仲間が安心して働ける職場を作るため、センターの現場担当者がワーキンググループを結成し、カスハラ対応ルール・マニュアルを作成。カスハラを応対したスタッフへのフォローも拡充することで、安心して働ける職場環境の実現につなげている。

ガス・電気料金の高騰によるクレームの増加などをきっかけにカスハラ対応の取り組みを開始
東京ガスグループの“顔”として、24時間365日体制で年間約350万件(2023年度実績)にも及ぶお客さまからのお問い合せに応対するコンタクトセンターを運営する東京ガスカスタマーサポート(株)。同社では2022年からカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対応への取り組みを開始した。
同社には従来から「全てのお客さまに真摯に対応する」という文化が定着しており、一部の不当な要求や苦言に対しても、お客さまの納得が得られるまで長時間の対応を行っていた。しかし、2022年2月に勃発したロシアのウクライナへの軍事進攻などをきっかけにガス・電気料金が高騰したことで「請求金額が高すぎる」といったクレームが増加。長時間の拘束、罵声、暴言、脅迫なども目立つようになった結果、直接受付を担当するコミュニケーターをはじめとする従業員が精神的に疲弊し、体調不良者や休職者が増加。入社1年未満の社員の離職率が10%にまで上昇するという非常事態となってしまった。
一方で、同じく2022年2月には厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表するなど、社会全体でもカスハラ対応に対する関心が高まっていた。
このような内部・外部状況があいまって同社でお客さまセンターの運営を担当する運用企画部内では「一部の過度な要求や暴言に応対する必要があるのか?」といった問題意識が芽生えた。そこで、経営陣の了解を得て、外部の専門コンサルタントも交えた検討などを行った結果、「従業員を守るために変革が必要」という認識に至り、具体的なカスハラ対応の取り組みをスタートすることになった。
センターの現場担当者によるワーキンググループを中心に対応ルール・マニュアルを作成
同社のカスハラ対応の取り組みではまず、2023年1月に5つのお客さまセンターから8人の代表者が集うかたちでワーキンググループ(WG)を結成。このWGで毎月3回程度、実際の対応に基づく討議を行い、「カスハラの定義・行為類型化」「一部拠点でのトライアル実施」といったステップを経て、「対応ルール・マニュアル作成」につなげ、2023年7月から5センターでカスハラ対応の運用をスタートすることとなった。
なお、このステップにおけるトライアルでは当初、最初に受付を担当したコミュニケーター(CM)が自ら、その案件がカスハラに該当するかを判断することとしていたが、対応水準がまちまちとなり、いわば「火に油を注ぐ」といった状況になるケースも見受けられた。そこで途中からは「困ったらエスカレーション」といった対応にすることとしたが、同社のカスハラ対応ルール・マニュアルはこのようなトライアルで得られた知見を反映して策定されたものであり、現場での運用において無理がないように設計されている。
アフターフォローまでも含めた対応ルール・マニュアルを策定・運用
WGの検討によって、同社にとってカスハラは「①過剰な要求、②不当な言いがかり、③過度な大声や暴言を繰り返し執拗に行う行為のことで、企業としての対応の枠を超え、申し出自体が迷惑行為となっていること」と定義された。そしてこの定義に基づいて、「長時間の拘束行為」「過剰な繰り返し行為」など9つの行為類型を抽出し、それぞれについて具体的な行為例を明示することで、社内のカスハラに対する認識の統一化を図った。
そして、このようなカスハラに対応するために作成された対応ルール・マニュアルでは、特に従業員の心の健康を維持するため、応対を担当したスタッフへのアフターケアを重視した。同社では2017年から運用していたクレーム対応マニュアルがあったのだが、これを大幅に刷新。「カスハラへの応対を行ったCMやリーダー(LD)には上
長が小休憩の取得を指示する」といった内容を明示することで、確実にフォローがなされる体制を構築している。
また、対応フローにおいては、①CMはお客さま対応が難しい状況になったら、LDにエスカレーション、②LDはCMからお客さま対応を引き継ぎ、併せてスーパーバイザー(SV)へ支援を要請、③SVはカスハラ行為に該当するかを判断し、LDへ対応方法を指示、④ SVの指示を受けたLDは制止・警告を原則3回実施し、カスハラ行為が継続する場合は切電 、⑤LD・SVは再入電に備えて関係センターの管理者へ社内ツールで(切電に至ったお客さまの情報)共有、といったステップを明確化し、センター全体で統一感のある対応ができるようにした。
なお、ステップ④の制止・警告においては、例えば「 長時間の拘束行為」に対しては、「恐れいりますが、既に30分以上のお話しをさせていただいており…」といった表現をするなど、直接的に「カスハラ」という単語を持ち出すことで、お客さまをさらに刺激しないよう留意している。
ちなみに、さまざまな要因が絡むことから直接的な因果関係は定かではないが、このような対応ルール・マニュアルを運用した2023年の入社1年未満の社員の離職率は、前年の10%から2.2%にまで低下したとのことである。
教育・研修の充実化によりカスハラを生み出さない応対を強化
新たなカスハラ対応ルール・マニュアルの運用を開始した2023年7月から2024年3月までの9 ヶ月間で、同社の定義によるカスハラ案件と認定されたのは67件。そのうち6割近くについてはマニュアル通りのカスハラ対応ができたが、3割超については「従業員が躊躇してしまった」などの理由で規定のカスハラ対応ができなかったということであり、今後はさらに統一的な対応ができるよう、徹底を図っていく意向だ。
一方で、カスハラを生み出さない応対の強化にも力を入れていく。お客さまからのクレームはいわば同社への期待の裏返しであり、適切な応対によりご満足をいただくことができれば、同社のファンになっていただける可能性もある。このような認識から今後はCMに対して「お客さまの気持ちに寄り添った応対」の研修を強化。さらにLD、SVへの教育も充実化することで、全社的に安心して働ける環境の維持・強化を図っていく方針である。
出典:CCAJガイドブック Annual Report Vol.34

